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東京地方裁判所 平成11年(モ)10637号 決定 2000年5月08日

《住所略》

申立人(被告)

金沢義秋

《住所略》

申立人(被告)

森好文

《住所略》

申立人(被告)

平島稔

申立人代理人弁護士

川口誠

《住所略》

相手方(原告)

甲野太郎

相手方代理人弁護士

藤本健子

主文

相手方は、平成11年ワ第9104号損害賠償(株主代表訴訟)請求事件の訴えの提起について、申立人ら各自のために、この決定が確定した日から14日以内に各1000万円の担保を提供せよ。

理由

第一  事案の概要

一  申立の趣旨

本件は、株式会社ジャレコの株主である原告が、ジャレコの取締役である被告らに対し、株主代表訴訟により会社に対する損害賠償を請求する本案訴訟を提起したところ、被告らが、商法第267条第5項の規定に基づき、原告に対し相当の担保を供すべきことを命ずるよう請求した事件である。

二  原告の請求原因の要旨

原告はジャレコの株主として、ジャレコの取締役である被告らが平成9年3月31日の決算において取引先である株式会社アイマックスに対する架空売上を計上して1億1371万8020円の配当決議案を株主総会に提出して違法配当を行ったとして、会社に対する配当額相当の損害賠償を被告らに対して請求する。

三  争点

原告の訴えの提起が、商法第267条第6項によって準用される商法第106条第2項にいう「悪意ニ出デタル」ものであるかどうか。

第二  裁判所の判断

一  裁判所の認定した事実

記録によれば、次の事実を認めることができる。

原告は、平成2年に手形を偽造して銀行から3億円を超える金員の支払いを受けたことにより、有価証券偽造・同行使の罪で逮捕され、実刑判決を受けた前科を有する者であるが、ジャレコの取引先である株式会社アイマックスが資金繰りに窮していたことから、平成10年春頃から、同社に対し、大阪証券取引所第1部上場の株式会社ワキタ振出名義の偽造手形を譲渡してこれをあさひ銀行蒲田支店で割り引かせて金融を受けさせる方法で、アイマックスの経営に関与するようになった。

原告は平成10年6月25日にジャレコの株式2000株を取得したが、3か月後の平成10年9月16日、フジ経済タイムス編集主幹新野廣を名乗る者(原告の株主名簿の住所と新野が示した名刺の住所は同一である。)がジャレコの本社を訪れ、被告平島に対する面会を要請し、応対したジャレコ総務課員に対し、ジャレコのアイマックスの取引に絡む粉飾決算の件で来週業界紙に記事を出すのでものを言いに来た、と申し出た。

ジャレコは、これに対して何らの対応もしなかったところ、原告は、平成10年9月29日、商法第267条第1項の定める株式取得後6か月の期間も経過していないのに、ジャレコに対し、アイマックスに対する架空売上を計上した違法配当があるとして、取締役である被告らに対する訴え提起を請求する書面を送付した。

平成10年10月19日、ジャレコに対し、別紙のフジ経済タイムスが送付されたが、その内容は、「非道に隠された粉飾決算の舞台裏」「ゲーム業界大手ジャレコの内幕」「架空の経理処理で粉飾決算」などの大見出しを掲げ、「一般株主の激怒 都内在住株主談 私達一般株主が株式売買をする時、3つのポイントを最初にチェックしてその会社の株式を取引することにしておるんですが、先づ第一に、過去3年から5年を逆上っての株価変動ライン、第二に株に対しての配当金と、決算期の経常利益、第三に、経営者の経営理念と、経営手腕を自分達なりに調査をしてから取引をすることにしているのですがね、株価操作や、決算期操作のために粉飾決算されたのでは、とんでもない、絶対に許す事はできませんね、私は株主総会で強行に追求しますよ、だいたいね、ゲーム業界のリーダー的会社がですよ、興信所の信用評価が、Dクラス49点ではね、全くあきれて物も言えませんよ。完全にだまされてきましたよ、と品川在住のI株主さんが私の取材にいかりをぶちまけながら応じてくれたのは、他の多くの株主の方々も、異口同音ではないかと推察される。」との記事が掲載されるなど、その内容は、ジャレコ及び被告平島を中傷する内容となっている。また、記事中の、品川在住のI株主は原告を指していると推認できる。

原告は、平成11年4月26日に本件株主代表訴訟を提起し、甲第七号証の二のアイマックス宛のジャレコの請求書に「売掛値増」との記載があることを根拠に伝票操作による架空売上計上の事実を証明しようとしているが、原告は、株主代表訴訟の提起の前提として訴えの提起の請求をし、本件訴訟を提起していながら、株主としてジャレコに対して、事実関係の釈明を求める行動はとっていない。

二  悪意について

前記認定の事実によれば、原告は、偽造手形の割引の斡旋という形態を通じてジャレコの取引先であったアイマックスの経営に関与する中で、ジャレコとアイマックスの取引関係に関する書類を入手し、その内容をもとにジャレコに対して金銭を要求しようと計画し、ジャレコの株式を取得する一方で、ジャレコを非難中傷する新聞の発行配付を告知して暗に不当な利益を提供するよう要求する姿勢を示しつつ、会社がこれに応じないために、株主代表訴訟の提起を前提とする提訴請求から本訴の提起に至ったものと認めるのが相当である。したがって、原告は、株主代表訴訟の提起を口実に会社又は取締役から不当な利益を得ようとして本件訴えを提起したものであり、原告の本件株主代表訴訟の提起は、商法第267条第6項によって準用される商法第106条第2項にいう「悪意ニ出デタル」ものであると認めることができる。

三  結論

以上によれば、本件株主代表訴訟の提起によって被告らの受ける損害の程度を考慮して、原告に主文のとおりの担保を提供するよう命ずることが相当である。

(裁判官 小林久起)

別紙 《略》

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